2015年4月12日日曜日

皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇



メキシコ麻薬戦争のドキュメンタリー。
タマフルで元になった本も紹介されてましたが、
早く読みたくなるくらい言葉を失ってしまう映像でした。
もっと麻薬カルテルよりの映像、
それこそ潜入ものかな〜と勝手に思ってたんですが、
ギャング達のことを歌った
ナルコ・コリードの歌手たちと警察に密着し、
メキシコ麻薬戦争の光と闇が映し出される。
悪の法則でも描かれていた、
誰が悪いかさえ分からないシステムの中で、
それに乗り切れず粛々と毎日を生きる人達と、
そのシステムに乗っかり調子良く生きる人達。
麻薬カルテルが作った無政府状態というシステムが
本作では描かれる訳ですが、どこの国にもシステムがあり、
それに乗って生きる人とこぼれ落ちてしまう人がいる
という意味では普遍的なことなのか…と考えさせられました。

2006年頃から始まった麻薬戦争について、
犯罪調査官(鑑識)の視点と、
LAに住むナルコ・コリードの歌手の視点によって
語っていくドキュメンタリーとなります。
映画がはじまってすぐに犯行現場のシーンとなり、
3人並んだ子どもたちが銃について語る。
ここから分かるのは、いかに犯罪や銃器が
この社会において身近なものかということ。
警官たちが覆面しているんですが、
それはギャング達に顔がバレて狙われないようにするためで、
完全に立場が逆転してしまっています。
本作で特異なのは死体が容赦なく映るところです。
道ばたに転がってるものや鑑識に回されたもの、
果ては首だけが映ったりもする。
数字で「毎日〜人死んでいます」というだけでは
伝わらない圧倒的な現実を突きつけられる。
しかも、麻薬とは一切関係ない一般の人や、
警察で働いているだけの人までも犠牲になっている。
さらに警察は粛々と死体を片付けるだけで、
捜査を一切行っていないんですよね。
そもそも犯罪が起き過ぎで人が足りないのもあるし、
捜査した人は間違いなく殺されてしまう。
これが21世紀の社会なのか…と頭がクラクラする。
それと対照的なのがナルコ・コリードシーン。
彼らはそういったギャングたちの日常を歌にし、
それで金を荒稼ぎし、子どもたちからも憧れの存在となっている。
大衆を苦しめるギャングのことを歌った曲で
大衆が享楽に浸るという決定的な矛盾。
見ていて「これでいいのか?」と考えまくりでした。
ギャングスタラップと同様のことなのかもだけど、
現実を突きつけられると何も言えなくなりました…
HIPHOPが果たした不良の救済という意味では、
同じ役割を果たしているんだけどさーというね。
あと印象的だったのが国境警備隊のインタビューで、
悲劇と喜劇は紙一重で思わず笑ってしまいました。
国レベルでどうにもならないなら、
もはやこの暴力の連鎖に終わりは無いのでは?
という絶望に打ちひしがれましたが、
世界の現実を直視したい方にはオススメです。

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