2016年6月18日土曜日

あの素晴らしき七年

あの素晴らしき七年 (新潮クレスト・ブックス)

最近よく読んでいるBookbangという
書評まとめサイトがあって、
書評家の豊崎由美さん、西加奈子さんのレビューと、
表紙の可愛さに惹かれて読んでみました。
(西さんは本の裏表紙にもコメントを寄せています)
本作はエッセイなんですが無類にオモシロかったです!
今年ベスト級かもしれません。。
海外の方のエッセイを読むのは初めてだし、
生まれや生活圏の異なる人の話に共感できるのかなー
と不安に思っていた面もあったんですが、
それは杞憂でしかありませんでした。
作者はイスラエルのテルアビブ在住の小説家。
彼の子どもが生まれて父親が亡くなるまでの
7年間に起こった身の回りの話をまとめたものです。
ホンマの話?!と思わず言いたくなるほど、
落語みたいなよくできた話ばかりで、
くすりとさせられたり、考えさせられたり。
イスラエルはここ十数年常に戦時下にあり、
生死に対する距離感が僕とは明らかに異なるんですが、
そこで絶望する訳ではなく、
能動的に考えたり、そんな生活の中でも存在する
楽しい瞬間を鮮やかに切り取っています。
家族というのが1つの大きなテーマになっていて、
子どもの成長記録でもありつつ、
父親の死を迎えるお話でもあるという、
その対比がまた素晴らしいんですよね。
新たに世界と対じするときの新鮮味と、
世界をすでに熟知してるがゆえに分かることの対比。
また彼には姉と兄がいるんですが、
それぞれが特殊な事情を抱えています。
姉は正統派ユダヤ教を信仰していて、
いわゆる一般的な社会とは、
かなり異なる価値観で生きています。
また兄は旧態然としたイスラエル社会に
正面から立ち向かった人でタイ在住。
彼らについてそれぞれエピソードがあるんですが、
父の葬式が終わった後に訪れる、
姉、兄との水入らずの時間を迎える彼の言葉が
どうしたったグッと来てしまうんだよ!
どのエピソードも大好きなんですが、
とくに好きだったし考えさせられたのが、
「見知らぬ同衾者(Strange Bedfellows)」
イスラエル人である著者がバリに滞在することは、
非常に危険なことだったんですが、
その滞在時に遭遇した元ホテルマンの
スイス人のエピソードを引用して、
自分の目で「見る」「聞く」ことの大切さ、
それを怠ることで蔓延する差別意識について、
これ以上ないほど鮮やかに描き出していて、
本当に素晴らしい話だと思いました。
基本的に屁理屈ばかりこねていたとしても、
それは世界と真正面から向き合っているということなんだ!
という、よく分からない形の勇気をもらいました。

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