2016年7月13日水曜日

沈黙

沈黙 (新潮文庫)


前から読みたいなーと思っていたのと、
又吉さんの新書の中で現代文学が紹介されている章があり、
一番最初に紹介されていたので読んでみました。
めちゃめちゃオモシロかったです!
1981年に発表された作品で
江戸時代のキリシタンを描いた話にも関わらず、
宗教への普遍的な眼差しがとても興味深かったです。
読み終わった後に響く「沈黙」というタイトルの重み。
主人公はポルトガル人の宣教師ロドリゴ。
日本人作家であるにも関わらず、
外国人が主人公になっているところからして、
これは何かあるな?と思いましたし、
あとがきでも指摘されていたんですが、
はじめに客観的な視点で背景をざっと説明し、
次に故郷の人に宛てた主人公の手紙という構成が巧み。
ロドリゴは熱心なキリスト教信者で、
キリスト教が迫害されている日本へ、
信者のために理想を高く掲げて密航してきます。
この理想が時間をかけて徐々に崩壊していく様を
ジリジリと描いていくのが無類にオモシロいんですよねー
主人公の周りを囲む登場人物が超魅力的!
キリストにとってのユダのような存在であるキチジローは、
ロドリゴへの裏切りを繰り返しながらも
彼に懺悔を求める情緒不安定な人。
ロドリゴは初めキチジローを「不道徳なやつだ!」
と完全に舐めているわけですが、
自分の信仰が追い込まれていき、
自分自身がキチジローとなんら変わらない、
むしろもっとひどい人間かもしれないと思い悩んでいく姿が
読んでてあまりに不憫だなーと思いました。
また、キリシタンを弾圧する役人である
イノウエの狡猾さがたまんない!
自分の痛みと他人の痛みの程度を理解し、
そこを巧みにコントロールして
ロドリゴの心を砕く手際の恐ろしさに身震いしました。
そして、タイトルの「沈黙」は物語内で
繰り返し言及されるんですが、これは神の沈黙の意。
いくらひどい状況でも、神がいつか救ってくれる。
というのが宗教の根本にある中で、
ロドリゴを含めた多くの信者に残酷な事態が何度も訪れるんですが、
事態はいっこうに良くならないばかりかヒドくなってくる。
何を信じればよいのか、神は本当にいるのか?
信仰の土台がグラグラしちゃうところがスリリングでした。
ロドリゴの信仰の変化の象徴として、
キリストの顔を思い浮かべるシーンが何度も登場するんですが、
英雄としての凛々しいキリストから
踏み絵で踏まれ倒した醜いキリストへ。ここも残酷。。。
神に祈れば事態が解決するなんて甘いことはなく、
神はあくまで自分の心にいるもので、
支えてくれるに過ぎないのである。
というメッセージなのかと。
エキサイティングな側面もありつつ
宗教に対する思考を深めさせてくれる傑作でした。

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